■神戸フィルムオフィス
-設立の経緯は?
きっかけは、阪神淡路大震災。その後神戸市が街を元気にできる事業を模索していて「フィルムコミッションはどうだろう」という話が出てきた。神戸には美しい海と山をはじめ、洗練された街並み、活気あふれる下町、のどかな田園風景、そして酒蔵や温泉街など、ロケ地が豊富にそろっている。そんな神戸を、映像を通して元気にしたいという思いで設立した。
-神戸フィルムオフィスの業務とは?
国内外から映画やテレビドラマ、テレビ番組、CM、ミュージックビデオ、写真などの撮影を神戸に誘致し、撮影に必要な支援を提供すること。制作者からの問い合わせに情報提供をするところから始まり、ロケ地の下見のセッティングや撮影候補地の案内、ロケ地が決定すると地域住民や関係機関との交渉、申請手続き、ロケ弁や宿泊施設、美術装飾、重機レンタル、市民エキストラの手配も行う。撮影の立ち会いではスケジュールの進行状況なども現場で確認し、公開・放送される際にはその作品が神戸で撮影されたことを映像制作者や市民、観光客へPRする。
-これまでどのくらいの映像作品に携わった?
映画141本、テレビドラマ121本を含む計1940本の作品を支援した(2012年7月末日現在)。
-最初の作品を覚えていますか?
設立後の初めての支援作品は妹尾河童さん原作の「少年H」というテレビドラマ。
■神戸で撮影することについて
-人気のスポットは?
人気のスポットというより台本を見てそのシーンを撮影できる場所は神戸であればどこかを考えていく。制作者はなるべく移動せずに重要なシーンができるだけ多く撮影できる街を探している。いい場所だけがあっても許可が下りるかどうか、時代背景と合致しているかどうか、道路が封鎖できるかどうか、などで候補地がある程度決まる。一カ所だけで撮影が完了する作品は少ないが、できるだけ神戸で撮影できるようにと考えている。
-ロケーション地としての神戸の魅力は?
近代的な街並みと下町の市場など昔ながらの風景がそろっているのが神戸の強み。わらぶき屋根の建物や田園風景、建物も新旧さまざま。制作者にとって神戸は、すごく便利な街だと思う。
-制作者にとっての神戸とは?
制作者の「関西に行けばどうにかなるのでは」という部分と、今までの実績がある街。神戸で撮影に至らなくても「最初に相談したい街」になれているのでは。
■これまでの撮影について
-神戸市民の協力体制
映画に関しては街ぐるみで夢を見られる。施設を貸していただくことも多いが、撮影に協力いただく際は人種や性別、年齢など関係ない。一つの目標に向かって共にする時間は宝物。たくさんの人が関わる「非日常」は、たった一日だけでも大きな絆が生まれ、そこから派生するネットワークはものすごい。
-撮影をする際大切にしていることは?
映画やテレビドラマなどの撮影では、役者の動きだけでなく一緒に音も録っているので、いくらシーンにぴったりな場所があっても、道路の音が入ってしまう場所などでは撮影できない。加えて機材や役者も車移動なので、車を止められるところがなければ機材さえ持ち込めない。撮影の条件を満たしている施設を紹介することが大切。
-反響の大きかった作品はありますか?
日本で初めて地下鉄での撮影が許可されたことから、制作者たちからの映画「GO」への反響はとても大きかった。それが映画「交渉人 真下正義」にも繋がった。旧居留地の交差点を封鎖して撮影した「僕の彼女はサイボーグ」も反響が大きく、「神戸に行けばこんな映像を撮れるのか?」という問い合わせが多かった。地下鉄での撮影や交差点の封鎖はとんでもなく果てしなく大変な作業。ものすごいエネルギーが必要だったが、誰もやったことがないことを一つずつクリアし、たくさんの前例を作ってきた。
■これまでを振り返って
-設立からを振り返って
設立当時を振り返ると、みんな分からないことだらけだったという印象。今では、警察の方も一緒にどうやったら思いが形になるかを考えてくれるようになった。ロケのお願いに行くと、「今度は何をするの?」と皆さんが撮影を理解した上で協力してくれるようになったのが、本当にありがたいと感じている。
-映画の誘致で生まれる経済効果とは?
制作者がロケに来ることで、宿泊費や飲食代をはじめ、重機オペレーターや警備員の雇用、施設使用料や営業補償など、いろんな経済効果が生まれる。街を元気にすることは、街の人を元気にすること。元気になっていただくには、住むところがあって、仕事があることが大前提だと思っている。阪神淡路大震災からの復興を目指して創立したので経済効果は重要。
-原動力は?
「神戸が好き」――それに尽きる。大変なこともたくさんあったが、ここまで頑張ってこられたのはやっぱり神戸が好きで、いいものがたくさんあるのに生かし切れていないのはもったいないという気持ちがあるから。観光客の方には神戸の観光名所だけでなく、映画で出てきた場所も回って神戸をもっと知ってほしい。写真一枚でも誰かが撮影しないと私たちの目には届かない。私たちは映像にまみれて生活をしているので、神戸の方には映像の力はすごいということを知ってほしい。
■インタビューを終えて
全国の撮影支援ネットワークを強化し、国内外の映画・映像作品の製作支援などを行う「Japan Film Commission」副理事長で、兵庫県内のフィルムコミッションと自治体を束ねる「ひょうごロケ支援Net」の会長も務める田中さん。「今まで撮影に使用した建物も随分壊されてなくなってしまった」と寂しそうに話す田中さんは、失われていく街並みを映像に残すことの大切さを感じているという。
映画に協力した関係者は公開された映画を見たくなり、映画館へ足を運んだり、DVDを購入したりという経済効果も期待でき、新しい趣味となるかもしれない。神戸の街や人が関わる作品は数多く存在する。皆さんも身近な街が登場する映像をご覧になってはいかがだろうか。