阪神・淡路大震災に耐えた壁をモチーフにしたオランダ人芸術家のトン・マーテンスさんの作品「長田区の壁(紙のモニュメント)」が7月7日、兵庫県立美術館(神戸市中央区脇浜海岸通1)に寄贈された。
同作品のモチーフになった壁は、長田区にあった高さ7.3メートル、幅13.5メートルの防火壁の一部で、第二次世界大戦時の神戸大空襲と阪神・淡路大震災に耐えたもの。当初、撤去の計画もあったが、地元の現代美術作家・三原泰治さん(「リメンバー神戸プロジェクト」代表)による「神戸の壁」保存活動で、現在は「北淡震災記念公園」(淡路市)へ移設され展示されている。
マーテンスさんは、フロッタージュ(日本でいう拓本)という方法を用いて生活の痕跡のある歴史的な建物などを残す芸術家。初めて神戸を訪れた震災の年の11月。「ギャラリー夢創館」(長田区)の中西康子さんと三原さんに出会ったことがきっかけで「長田区の壁」を芸術作品として保存することを決めたという。
その後、中西さんはフロッタージュに必要な縦217センチ、横98センチの和紙76枚の費用を支援することで作品制作を支援する「ワンシート運動」を展開。「震災の記憶を後世に伝えたい」と多くの被災者らが賛同し寄付。同運動賛同者にはマーテンスさんから感謝の手紙が添えられた2色刷版画「神戸の壁」が送られた。そのほか、作品制作に関する費用は、国内だけでなくオランダの市民が寄付などで支援。約2週間かけて壁全体を写し取る作業は当時の津名郡津名町(現在の淡路市)役場の人たちが協力したという。
寄贈式では、在大阪・神戸オランダ総領事のマルガリータ・ボットさんがマーテンスさんの代理で出席。マーテンスさんは、作品と制作活動の記録や日記などが梱包(こんぽう)されていた搬送用の木箱に鎮魂の意を込めたという。同館の蓑豊館長は「たくさんの人に壮大なアイデアのこの作品を見ていただき、震災のことを思い返していただきたい」と話した。
同作品は現在、同館で開催中の新収蔵品展「2012年度コレクション展II」で、20世紀の巨匠S.W.ヘイターの作品55点などと共に展示されている。
開館時間は10時~18時(金曜・土曜は20時まで)。月曜休館。入場料は、一般=500円、大学生=400円、高校生・65歳以上=250円、中学生以下無料。11月4日まで。