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「適材適所の障がい者雇用を」-福井佑実子さん(プラスリジョン社長)に聞く

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■障がい者雇用について

-事業を起こすきっかけは?

障害のある人もない人も共生するノーマライゼーションの進んだ大阪・箕面市の出身。重度の障害のある人も多く、小学校では6年間を共に過ごした。その中で、障がい者はオールマイティーではないかもしれないけれど、秀でた才能があると感じていた。大人になると就職や進学でつまずくことが多いと知り、大人になった方が障害で分断されていると感じた。その解決は誰がやっているのか、みんなでできることをやって少しずつ手を差し伸べたら解決するのではと思った。

大学の職員として働いていたころ、新しい産業や事業を企画する部署で仕事をしていた。上司から東京に「スワンカフェ」という半分以上のスタッフが障がい者の店があると聞き、実際に行ってみるとびっくりするくらいおしゃれなカフェだった。学生時代からボランティア活動に参加し、福祉の仕事に関われないかと思っていたので、こうしたソーシャルビジネスの形なら自分でも関われるのではという思いがきっかけになった。

-障害の境界線とは?

どういうシチュエーションで何が障害なのかをよく考えることが大切。移動するというシチュエーションで障害はあっても、パソコンを使って仕事するというシチュエーションでは障害がない場合などある。障害は個人に属するものではなく、環境に依存するものだと思うので、「障害がある・ない」の境界線は動かしたり消したりできると感じている。働くことでいうと「何をやってもらうか」「何を一緒にしていくか」がシンプルな考えだと思う。重要なのは障害の程度ではなく、働きやすい環境づくりと、仕事と人のマッチングの問題。障害のある人が働きやすい職場は誰もが働きやすい職場であることが多い。

-雇用する側にとって大切なこと

赤字事業を作らないこと。黒字事業を作ろうと思ったら、おのずと事業モデルと雇用者のマッチングを考えるはず。企業の障がい者雇用について現状分析や改善提案を依頼されることもあるが、ナンセンスだなと感じることは多い。「簡単な仕事だったらできる?」と採用担当者から相談を受けるが、簡単・難解ではなく、業務が整理されているか、例えば、ルール化されているものか、判断を求められるものかなど、業務の見極めや、障害のある人の得意を活かせる業務の見極めが大切。軽度・重度は関係なく、適材適所があることを知ってほしい。

障害のない人だって向き不向きがあり、それによりモチベーションも変わる。ミスマッチが起こりやすいところだが、自分が気持ちよく働けて成果を上げられる人材配置がある。彼らのいい面に目を向けて、それを引き出すことが継続性のある事業につながるのでは。


■「オニオン・キャラメリゼ」とは

-「オニオン・キャラメリゼ」とは

淡路島で有機栽培されたタマネギを、塩も油も使わずあめ色になるまで炒めたペースト。出来上がりまで丸一日かかり、製造は発達障害などの障害のある人たちが自立・就労訓練をする福祉施設で担当している。支えられることの多い障がい者が、畑から食卓まで支え支え合うサイクルの中に参画し生まれている商品。カレーやスープ、ハンバーグなどの隠し味に加えるだけで、時間をかけた本格料理の風味に近づける。

※「オニオン・キャラメリゼ」(ギフトボックス1,050円、80グラム詰め替え用265円)は同社ホームページなどで販売する。
http://www.cafesante.jp/onion/
※写真は、ゆうわ福祉会(神戸市北区)で製造する様子。

-販売企業や消費者の反応

販売を開始して4年経つが、不良品は一つもない。食品業界の厳しい検査をクリアし現在までに3拠点から約10万食を出荷した。「これだけ品質のいいものを作れるのか」と感心されることが多く、障害に対する意識も変わってきているのでは。

-どんなきっかけで始まった?

2006年から厚生労働省の研究で、障害のある人の仕事づくりに関わるようになり、有機野菜の弁当を作るようになった。これで農家も障がい者も消費者もみんながハッピーに、と思っていたが、同年は障害者自立支援法が施行された年。施設の経営は国からの助成金で賄われていたが1割負担になり、福祉事業に変革が求められていた。発注が増える一方で弁当の特性上、午前中早い時間からの仕事が多く施設担当者に負荷がかかる現実も浮き彫りになり、事業の見直しが必要になった。消費期限が長く、常温で管理ができ、単純作業のものをと考え「オニオン・キャラメリゼ」が生まれた。

-商品化までの道のりは?

労働時間は9時~17時の範囲で、それまでの弁当作りよりも工程を単純にした。作業を細分化し、工程を整理して、障害のある人が全工程に参画できるようにした。そして2008年3月に「オニオン・キャラメリゼ」の販売を開始すると同時期にプラスリジョンを立ち上げた。「オニオン・キャラメリゼ」は、商品力で勝負できる商品、障がい者が作っているからといっておまけなどは一切ないガチンコ勝負でここまでやってきた。

-現在のシェア

販売開始当初、NEC東京本社の食堂で「オニオン・キャラメリゼ」を使ったヘルシーカレーをキャンペーン提供していただいた。ASPLUND(アスプルンド)の212カフェやTCカフェでも使っていただいている。最近では阪急うめだ本店のオープンの際に出品依頼があり、調味料のコーナーで新規販売を始めた。


■今後の活動について

-「オニオン・キャラメリゼ」の今後は?

現在の商品では料理をする人にしか使えないので、もっとみんなが手に取れる最終商品としてスープなどの開発を進めている。障がい者と接点のない人にも、商品を通して物語を伝えていきたい。ABCクッキングとのコラボレーションで、今年のバレンタイン明けに新商品の手作りキットを販売する予定なので、そちらにも注目いただければ。

-自分自身の方向性は?

企業や福祉施設の支援をすることが多いが、人のふんどしで相撲を取っていると成果も人任せになってしまう。もっと雇用の場に執着して、自分で作っていきたい。「オニオン・キャラメリゼ」のノウハウは広く公開し、皆さんが地域特性を生かしたより良い雇用が広がっていってほしい。障がい者の雇用は社会課題、解決するには競合相手とも協働していきたい。今後はもっと多様なバックグラウンドの方たちを巻き込んで、今まで気づかなかった事業でも雇用を創っていきたい。



■インタビューを終えて

「企業のウェブサイトで障害のある人とない人の求人情報を分けているのをよく見かけるが、そんな必要はない。障害の重さよりもその人のキャラクターと社風が合うかの方が大事」と話す福井さん。話していると「なぜ障がい者雇用をこれほど難しく考えるようになったのか」という疑問が湧いてくる。

「都会でない地域では農業6次産業化のフレームに無理のない形で雇用を創出できないか」と、考えを聞かせてくれた福井さん。現状に満足することなく、一歩先を見据え新たな一歩を踏み出す福井さんの今後の活動に注目していきたい。

plusligion(プラスリジョン)

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