神戸市は、市内に23の大学・短期大学があり、約7万人の学生が学ぶ全国屈指の「大学都市」という側面がある。
大学が集積する都市という特色を活用しようと、神戸市では組織内に大学連携部署を設け、2014(平成26)年からは市内大学との事務局レベルでの懇談会を実施するなど、情報交換や協働事業を展開する中で大学との結びつきを強めてきた。神戸大、甲南大、神戸学院大、関西国際大とは「包括連携協定」も締結している。
2029年には関西学院大が学園創立の地である王子公園に新キャンパスを開設する計画も進んでおり、大学都市としての厚みが増す見込みだ。
一方、大学を取り巻く状況は、急激な少子化や社会情勢の変化の中で年々厳しくなっている。神戸に多い女子大への影響は顕著で、2023年度に共学となった神戸親和大に続き、2025年度からは神戸松蔭女子学院大も共学となる。神戸海星女子学院大は2027年3月に閉校の予定だ。
神戸市内の大学は中小規模校が多く、人的資本を含めて大学単体での経営体力に余力がない。それぞれの大学が単独で劇的に変化する社会情勢に対応することは容易ではない。
他都市と同様、神戸市の喫緊の課題は急激に進む人口減少への対応だ。大学への入学時には神戸市への転入超過になっているにもかかわらず、卒業時には東京や大阪への就職等により神戸から転出し続けていることへの具体的な対応策を模索する。
人口減少・高齢化による人材不足は企業にとっても深刻な課題となっている。多くの中小企業は、人材の確保・育成・定着に苦しんでいる。
大学、経済界、神戸市それぞれが危機感を共有する中、三者が一体となり共創プロジェクトを実施するための主体として、2023年11月、一般社団法人「大学都市神戸産学官連携プラットフォーム」(以下、プラットフォーム)が設立された。プラットフォームが目指すのは、「優秀な人材の獲得」「人材育成と定着」「地域社会への貢献」を3本柱とする「チャレンジし続けるグローカル人材の育成・定着」。現時点で、大学=11、高専=1、企業・団体=36が参画している。
2024年1月には、三宮都心のセンタープラザ9階に「KOBE Co CREATION CENTER」も開設。4月からは会員だけでなく一般利用者にも開放するようになり、産学官によるさまざまなコラボレーションが生まれることが期待されている。
神戸市職員として10年以上大学との連携事業に携わり、現在はプラットフォーム事務局長を務める藤岡健さんは「これからの時代に大学が自前主義で取り組むのは難しい。企業も巻き込んで活動を活性化し、大学都市の価値を高めていきたい」と意気込む。「地域で認められる大学となるために、大学側も受け身ではなく頑張るパッションが必要」とも語り、各大学の積極性にも期待を寄せる。
2024年5月21日には、「神戸の未来創生に向けた大学経営人材育成プロジェクト」が発表された。
当プロジェクトは、日本国内のフォント市場でトップシェアを誇るモリサワからの寄付を財源に、事業構想大学院大学の協力を得て実現。各地域の大学コンソーシアム組織において人材育成プロジェクトはあるが、「事業構想計画」という俯瞰(ふかん)した立場から大学経営全体を見る人材を育成するプロジェクトは神戸独自の取り組みになるという。
2024年6月21日に、神戸大など9大学から大学運営に関わる9人の職員が参加して同プロジェクトの1回目が開催された。プロジェクトを統括する学校法人「先端教育機構」学監の川山竜二さんから、神戸の大学を取り巻く現状分析や、リカレント教育の拡充や自県進学者の取り込みなど今後取り組むべき課題に関する話があり、参加者は熱心に聞き入った。
神戸常磐大から当プロジェクトに参加した職員は「一緒に学ぶ他大学の方からもたくさんのことを学びたい」と話す。同プロジェクトは多様な分野のゲスト講師も招きながら20回にわたり開催し、最終回の2025年4月25日には参加者それぞれが策定する大学の中長期計画の発表会を行う。
18歳人口が減少する一方、「人生100年時代」において社会人のための学び直しであるリカレント教育への需要は高まっており、国も支援事業で力を入れる。プラットフォームにおいても、「リカレント教育プロジェクト」を主要プロジェクトの一つと位置付けている。
リカレント教育コーディネーターの坪田卓巳さんは2024年1月から、神戸大の教員や認定NPO 法人「まなびと」の中山迅一理事長などを講師に迎えて、市内企業の次世代リーダーや神戸市の若手職員が参画した「産官学連携による越境学習リカレント教育プログラム」を実施した。
越境学習について、坪田さんは「ソーシャルセクターに対する企業の関心は高まっており、企業の方々にとっても有意義な越境体験を提供していきたい」と話す。「リカレント教育によってマインドセットが変化した人材の評価方法が確立していないのが課題」と話し、大学などと共同で人材評価指標の研究を進めているという。
現在、プラットフォームの体制の出向元は、民間企業=2人、大学=3人、神戸市=3人で、産学官の人材のバランスが取れた組織になっている。
和田興産からプラットフォームに出向する森崎沙織里さんは、学生と地域社会をつなげるコミュニティーサイト「BE KOBE学生ナビ」の運営を担当する。「個人的にも神戸が好きで神戸の企業に就職した。学生が神戸で就職したいと思える機会を提供していきたい」と話す。「最近の学生はとても優秀。直接交流することでさらに学生のニーズを把握していきたい」とも。
大きな危機の中だからこそ、さまざまな主体を巻き込んで動けた部分もある。産学官の協力によってプラットフォームが設立され、「KOBE Co CREATION CENTER」という場もできた。これらの装置も活用することで「大学都市神戸」がこれからどのように危機を乗り越えていくのか、その歩みに注目したい。