神戸・県庁前近くのギャラリーAo(神戸市中央区山本通5、TEL 078-341-5399)で10月17日より、「樋口正一郎展」が開催されている。
同展は、造形作家でありパブリック・アート研究者としても知られる樋口正一郎さんの作品を展示するもので、テーマは「宇宙の穴から眺める」。作品は、ケチャップの容器に入れたアクリル絵の具を、円や四角などの形にキャンバスに流し、絵の具の上から重ねたフィルムを回転させることで製作している。キャンバスからフィルムをはがさずに乾かすため、乾燥に1カ月ほどかかるという。会場には50号の作品2点と、30号の作品5点を含む24点を展示する。
樋口さんは「作品作りを自分の手でやっていくと、どうしても自分のイメージを定着させてしまう。きれいな色を思い通りに作ってしまうのは嫌」とパレットで絵の具を混ぜることは一切せず、原色のまま作品製作をしているという。「絵の具はそのままできれいな色だから、絵の具の持っているものをどれだけ引き出せるか。あるがままの絵の具同士が戦ったり、こすれ合ったりしながら勝手に作った作品をこちらは楽しむしかないんです(笑)」とも。
都市景観研究家でもある樋口さんは、1970年に渡米しニューヨークの設計事務所で働いていた。その際、折りたたみ自転車でアメリカ中を回り、デザインに対する思いやアート作品などに寄せる日本との文化の違いを痛感したという。「最初に『好きなものを考えなさい、世の中にないものを作りなさい。コストは考えるな』と言われたのには驚いた。でもアメリカでは、できないやつはすぐにクビになってしまう怖さもあった」と当時を振り返る。
アトリエを茨城県つくばみらい市に構える樋口さんが、今回神戸を選んだのは、「東京ばかりで個展をしていたから、これからはいろいろな所で開催して、たくさんの出会いを楽しみたい」という理由から。「神戸の長田に出来た鉄人28号を見てきたが、あれは最高(笑)。いわゆる今までの美術とは違うが、あのくらいのレベルで『ものづくり』をしてほしいと思わせてくれる『日本の自由の女神』」と笑顔で話す。
今後の日本文化においては、「日本はこれまで経済のことばかりを考えて金にならないアートは壊してきた。残っているのはお寺だけ。もっと文化大国を目指さないといけないのではないか」と神妙な面持ちで語る。「日本人はアートが国の骨格ではなく道楽だと思っている。日本の美術大学はあまり勉強もしないし、このままでは社会全体を見る目がない集団になってしまうのではないかと心配」とも。
開場時間は12時~18時(最終日は17時まで)。今月24日まで。入場無料。