日本画家・山下和也さんの個展「あいまに海を眺めている」が現在、神戸市立海外移住と文化の交流センター(神戸市中央区山本通3)内にある「KOBE STUDIO Y3(コウベ スタジオ ワイスリー)」(TEL 078-222-1003)で開催されている。
東洋絵画修理技術者(国宝修理装こう師連盟外部技術登録者)としても活動する山下さん(装こうの「こう」はさんずいに黄の異体字)。2003(平成15)年に京都嵯峨芸術大学付属文化研究所の研究生修了後、日本・中国の古典絵画の模写と文化財修復で培った技術と経験をベースに、日本の歴史や文化、思想を顧みながら、伝統芸術と現代芸術を捉え直すことを主眼に作品を制作している。
近年は特に水墨表現に着目し、「目には見えない『気配』のようなもの」を、淡墨とわずかな筆致、余白によって表現する「罔両画(もうりょうが)」に取り組んでいる。2018(平成30)年からは8世紀の中国の芸術表現「破墨」について考察した「破墨プロジェクト」を企画。神楽舞手、ファッションデザイナー、美術家と共に活動する。2017(平成29)年より、同展主催の「C.A.P.(芸術と計画会議)」メンバーとしても参加している。
「C.A.P.」で山下さんは、六甲山山頂の自然の中で現代アート作品鑑賞を楽しむ展覧会「六甲ミーツ・アート芸術散歩」、ドバイ(アラブ首長国連邦)、ハンブルグ(ドイツ)、トゥルク(フィンランド)などの海外アートグループとの企画「See Saw Seeds」などで活動し、さまざまな挑戦を続けている。
会場となる施設は1928(昭和3)年に建てられた旧国立移民収容所で、ブラジルに移住した25万人余りが日本で最後の日々を過ごした場所。後に第1回芥川賞受賞作で石川達三の作品「蒼氓(そうぼう)」の舞台にもなった。2009(平成21)年からは「移住の歴史を伝えるミュージアム」「在住日系ブラジル人の活動」「C.A.P.による芸術の活動」を通して多文化共生のまちづくりに貢献することを目的に市の条例施設となっている。
同展は、移住ミュージアムの常設展示と個人の日常を着想源に、絵画を中心とした作品によって構成。展覧会名は「鑑賞者に想像する余白を持たせたタイトル」にしたという。「C.A.P.」ディレクターの下田展久さんは「これまでなかなか誰も踏み込まなかった、移住・移民に触発された展覧会」と明かす。
山下さんは「3つのコミュニティーの人たちの協力を経て、作品、展覧会を制作することができたことにも意義がある。この展覧会がこの場所の歴史や記憶と鑑賞者の記憶やまなざしが重なるような体験になるとうれしい。階下の移住ミュージアムには、現代の私たちにもつながる近い過去の歴史を伝える常設の展示空間があるので、この機会に併せて鑑賞いただければ」と話す。
開館時間は10時~19時。月曜休館(祝日の場合翌日)。入場無料。今月28日まで。