新神戸駅構内の完全無人書店「ほんたす しんこうべ」(神戸市中央区加納町1)が2025年6月26日のオープンから1年を迎えた。運営する日本出版販売で店舗運営を統括する村田慎平さんに、この1年の歩みと今後の展望を聞いた。

■「もう1年たったか」という実感
村田さんは、この1年を振り返り「もう1年たったかというのが率直な感想」と語る。オープン後は、神戸市が進める「本」の文化振興プロジェクトとの連携や、無書店状態が続いていた新神戸エリアで求められる役割、来店客への訴求方法などを考えながら走り続けてきたといい、「まだまだ課題はあるが、一つずつ前向きに取り組んでいっている状態」と話す。
当初の想定と異なった点も多い。店舗前の通路は朝夕に学生が多く利用することから、コミックやライトノベルなどをそろえ学生層の利用拡大を狙っていた。しかし実際には、親子連れの旅行客利用が想定以上に多い傾向にあり、新たに児童書コーナーを拡充するなど来店客の傾向に合わせて品ぞろえを見直してきた。
品ぞろえの入れ替えの速さも同店の特徴の一つ。村田さんは「話題の書籍や人気タイトルを店頭にそろえ、旬の作品がすぐに目に入るような空間にしている」と話し、小規模店舗ならではの柔軟性を強みに挙げる。「こうしたら売り上げが上がりましたなど、良い事例は他の書店にも共有していければ」と、実験的な店舗運営の知見を業界全体に還元していきたいという。

新設した子ども向けコーナー
■神戸市との二人三脚
新神戸エリアは長らく書店のない地帯だった。きっかけは、神戸市から書店の出店に協力してくれる法人を探しているとの相談があり、さまざまな条件面などを考慮する中で同社が持つ店舗運営省力化ソリューションを用いた完全無人書店での出店が実現に至ったという。「新神戸エリアに書店を作ったということは評価いただいている」と手応えを語る。
開業当初から神戸市との「共創」を掲げ、情報発信拠点としての機能も強化してきた。イベントコーナーでは、市内メーカーが手がける雑貨や紅茶などの食料品、神戸市交通局との1周年記念コラボレーションでは実際に駅などで使われた鉄道部品も展示した。ほかにも、神戸を舞台にした小説や神戸で活躍する作家や作品のフェアも実施。村田さんは「観光客の方はもちろん、地元の方へも神戸の良さを伝えられるスポットを目指している」と話す。

神戸市交通局とのコラボレーションコーナー
■書店以外の取り組みも
同社は新神戸への出店を起点に、神戸エリア全体の活性化にも取り組んでいる。代表例が周遊型謎解き冊子「新長田商店街謎解き~父が遺した1冊の手帳~」。震災の影響を大きく受け、再開発後も人口流入や情報発信に課題を抱える新長田エリアについて神戸市から相談を受け、冊子片手に街を巡りながら現地の情報を手がかりに謎を解く企画を立ち上げた。村田さんは「謎解きをするために新長田に人が赴き、謎解きの休憩時には、冊子付属のクーポンで地元の飲食店を利用してもらえるような流れを作っている」と、地域経済への波及効果にも期待する。
さらに文化庁「令和7年度文字・活字文化資源活用推進事業」に採択され発行した「zine KOBE」は、謎解きと神戸ゆかりの作家による文芸作品を組み合わせた企画。多様な切り口で本と読者の接点を模索し、普段本を読まない人に向けても本の良さを発信していきたいという。

新長田商店街を舞台にした謎解き冊子
■無人書店に求められる役割
無人運営という業態ながら、村田さんは「店の人はいないが夜の時間帯まで開いている無人書店でも、心理的な安心感を地域に提供できると考えている。地域の書店には、そこに行けば店主と話しができたり、お客さま同士で話したりできるというコミュニティー拠点としての良さがある。リアル書店は、本を探す人が自然と集まる場所なので、無人書店も一種のコミュニティー拠点になりうると思っている」と語る。
大型書店のような品ぞろえでは競わず、「フラッと、サクっと、旬を手に」というコンセプトを掲げ、「旬の作品を中心に取りそろえた小規模店舗なので、駅利用で時間が限られたお客さまでも、サクっと立ち寄って目的のものをすぐに見つけることに適している」ところを強みとしながら、独自の存在価値を模索し続ける。
映像化された作品が置かれたコーナー
■神戸の「本の文化」を支える拠点へ
1年の運営を経て、今後見据えるのはさらなる新神戸エリアの活性化と、神戸市が掲げる「本の文化振興」への貢献。村田さんは「神戸の企業とさまざまなコラボレーションをしていきながら、神戸市が掲げる本の文化振興の一助になればという思いを強く持っている」と展望を語る。
地域住民の生活動線からは外れた立地ゆえ、地元での認知度向上は今も課題として残る。それでも、1年をかけて観光客やビジネスパーソンという客層を開拓し、書店という枠を超えて神戸市とともに地域の課題解決に取り組んできた「ほんたす しんこうべ」。次の1年も、新神戸を起点に神戸の魅力を発信し続ける。

神戸に関する本を集めたコーナー
■「ほんたす しんこうべ」
・住所 :兵庫県神戸市中央区加納町1丁目 新神戸駅構内
・アクセス :神戸市営地下鉄西神・山手線新神戸駅構内 北改札口出てすぐ
・売場面積 :20坪
・営業時間 :7:00~23:00
・Instagram:https://www.instagram.com/hontasu.shin_kobe.official/